特集 現代医学・生物学の仮説・学説
3.発生・分化・老化
体節の形成
黒岩 厚
1
1名古屋大学理学部分子生物学科
pp.494-495
発行日 1993年10月15日
Published Date 1993/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425900620
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概説
体節という言葉は,セグメント(segment)とソーマイト(somite)のふたつの異なる分節的構造の共通の訳語として使われている。セグメントは,節足動物や環形動物の前後軸にそった体腔の周期的くり返し構造を意味する。ソーマイトは,脊椎動物の胚発生過程で一次的に現れる前後軸にそった中胚葉性のくり返し構造であり将来脊椎骨,筋肉および真皮を生じる。いずれにせよ発生初期で形成される体節というくり返し構造は,動物の進化過程で体制の複雑化,高度化を遂げるために採用された基本的なストラテジーである。
発生過程における前後軸にそったくり返し構造の形成メカニズムは,節足動物のショウジョウバエで最もその解析が進んでいる。形態に異常をきたす突然変異はモルガンの時代から知られてはいたが,発生における形態形成をつかさどる遺伝子として系統的な解析がなされたのは比較的最近のことである。Nüsslein-Volhardに率いられたグループは,卵形成,胚発生において前後あるいは背腹の軸形成に関わる遺伝子群,また胚発生時に分節構造の形成をつかさどる遺伝子群の系統的探索を行った。彼らは前後軸と背腹軸の決定は独立して卵形成時から始まり,次いで受精後に前後軸に関する情報に基づいて分節構造形成をつかさどる分節遺伝子群の活性化がおきることを遺伝学的なレベルで明らかにした。
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