特集 現代医学・生物学の仮説・学説
2.分子生物・遺伝学
転写とその調節
広瀬 進
1
1国立遺伝学研究所形質遺伝研究部門
pp.476-479
発行日 1993年10月15日
Published Date 1993/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425900614
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
概説
1990年代に組換えDNA技術が開発されて以来,生物学,医学,薬学,農学にたずさわる研究者が多数の遺伝子をクローニングしてきた。現在でも次々と遺伝子がクローニングされているが,研究の流れはクローニングされた遺伝子の発現調節へと移っている。こうして蓄積された膨大な情報を整理すると,真核生物の転写とその調節に関して次のようなスキームを描くことができる(図1)。
遺伝子のすぐ近傍には転写開始のためのシグナルが存在する。タンパクをコードする多くの遺伝子では転写開始の約30塩基上流に存在するTATAボックスと転写開始点附近に存在するイニシエーター配列がこれに相当し,コアプロモーターとよばれている。コアプロモーターを認識して基本転写因子とRNAポリメラーゼが結合し,転写開始前複合体を形成する。これにヌクレオチドを加えると基本レベルの転写が開始する1)。裸のDNAを用いたin vitroの転写ではこの基本レベルの転写を検出できるが,生体内ではDNAはクロマチン構造をとっており,基本レベルの転写は低いレベルに抑えられているか,ほとんど検出されない。そこでコアプロモーターの使用頻度は,上流配列やエンハンサーとよばれるDNA上のシグナルに塩基配列特異的に結合する転写調節因子によって調節されている2)。エンハンサーは遺伝子の上流だけでなく,下流やイントロン内に存在する場合もある。
Copyright © 1993, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.