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コレステロールはホルモンや胆汁酸の前駆体として動物にとって必要な化合物だが,何より膜の構成成分として必須であり,増殖サイクルには細胞内に充分量のコレステロールが存在することを確認するためのコレステロールチェックポイントがあるといわれている。しかし,コレステロールの過剰蓄積は細胞にとって有害であり,アポトーシスを引き起こす。つまり,細胞が生きていくためには,膜中のコレステロールは多すぎても,少なすぎても駄目で,濃度がある範囲内に厳密に保たれる必要がある。コレステロールは非常に安定な多環式化合物であり,肝臓や副腎以外ではほとんど異化されない。従来,細胞内コレステロール濃度は,1)合成と2)細胞内への取り込みによって調節されていると考えられてきた。
しかし,1999年に血中の高密度リポタンパク質/脂質複合体(HDL)がほとんど消失する遺伝病であるタンジール病の原因遺伝子としてABCA1が同定され,ABCA1が薬剤排出トランスポーターMDR1と同じABCタンパク質ファミリーに属することが明らかになった1-3)。HDL形成は末梢細胞から余剰のコレステロールを取り除く唯一の経路であり,細胞内のコレステロール恒常性にとって1)合成,2)取り込みと同程度に,3)細胞外への排出が重要であると考えられるようになった。1)合成,2)取り込み,3)排出の各段階は個別に調節されているだけでなく,それら各段階がクロストークすることによって細胞内コレステロール濃度を絶妙に調節している。ユビキチン化によるタンパク質分解もコレステロール恒常性維持の重要なメカニズムの一つと位置付けられる。
本稿では,まずコレステロールの1)合成,2)取り込み段階での転写調節と翻訳後調節,およびそれらにおけるユビキチン化の重要性を簡単にまとめる。次に,3)余剰コレステロールの細胞外への排出の鍵を握るABCA1の作用メカニズムをわれわれの研究に基づいて説明し,ABCA1の分解調節について述べる。
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