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ヒトの大脳が形成される過程において,ニューロンの新生と遊走が盛んに行われたのち,視床から皮質への投射が到達するその時期に,皮質表面では脳溝の形成という大きな変化が生じ始める1-3)。例えば外側表面では,中心溝がまさに中央部分の亀裂として最初につくられる4-6)。その後,上側頭溝,上前頭溝,中心前溝などの一次脳溝と呼ばれる溝が順に形成される。脳溝形成の機序を解明することは脳の発達を明らかにするうえで極めて重要なテーマであり,tension-based theory,radial expansion,differential tangential expansionなどの仮説が提唱されて,盛んに研究が進められている7,8)。
胎児の脳のなめらかな表面に脳溝が生じてくるというダイナミックな変化の結果として,脳溝の位置や形,深さに個人差が生じることはヒトの大脳の特筆すべき特徴である9,10)。脳の形成と共に現れるこの個人ごとの“紋”は,脳の個性と考えられる。生後1か月の時点で磁気共鳴画像法(MRI)を用いて計測した脳の構造画像から脳溝や脳回の幾何学的特徴を取り出し,1歳,2歳それぞれの時点のデータと縦断的に比較すると,血縁がない他者はもちろんのこと,遺伝子と養育環境を共有した一卵性双生児の間であっても個別に同定できるほどに,個人に固有の特徴となる11)。生後1年の間にも細かい二次脳溝や三次脳溝が形成されると共に急速に灰白質の表面積が広くなるが,2歳以降は思春期までにわずかに増加する傾向にある12)。それに対して,灰白質の厚み(皮質厚)は胎児期から生後に増して,領域に依存するものの1歳から2歳のころに最も厚くなる13)。その後,言語機能に関連するシルビウス溝周辺領域では思春期前半まで厚みが増す一方で14),その他の多くの領域の厚みは減少する15,16)。増加して減少する経時的な皮質厚の変化は,脳溝の形成と共に個人を特徴づける発達過程である。
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