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わが国には,小脳に関する研究の長い伝統があり,また,わが国の多くの研究者が,世界の小脳研究をけん引し,その発展に貢献してきた。とりわけ,伊藤正男先生と佐々木和夫先生は,1960年代に,当時の先端的電気生理学的解析法を駆使して,小脳の神経回路の解明に取り組んだ。伊藤先生は,小脳のプルキンエ細胞が抑制性ニューロンであることを明らかにした。当時,プルキンエ細胞のような大型の投射ニューロンはすべて興奮性であると広く考えられていたが,伊藤先生の発見はこのドグマを否定し,大きなブレークスルーとなった。佐々木先生はJohn Carew Eccles教授のもとで,小脳皮質の神経回路の解析に取り組み,多くを明らかにした。伊藤先生,佐々木先生たちの研究によって,小脳の神経回路の大枠が解明され,その略図は現在の教科書に記載されている。1970年代以降,伊藤先生は前庭動眼反射の適応をモデルとして小脳による運動制御と運動学習のメカニズム解明に取り組んだ。Marr-Albus-伊藤の理論として知られる小脳運動学習理論を確立し,小脳の運動学習の基盤と考えられる長期抑圧の発見とその分子機構の解明に取り組んだ。佐々木先生は大脳と小脳の間の神経回路とその機能に関する研究を進めた。このように,世界の神経科学の発展に多大な貢献をされた両先生であるが,多変残念なことに,佐々木和夫先生は2017年7月に,伊藤正男先生は2018年12月にご逝去された。
伊藤先生は,本誌『生体の科学』の創刊時から深く編集に関わり,育ててこられた。そこで,伊藤先生が生涯研究対象とされ,世界的にその業績が広く認知されている小脳について,特集することが肝要と考えた次第である。大学院生として,伊藤先生に直接指導を受けた最後の世代である狩野と,2光子顕微鏡を駆使した計測で小脳研究に新風を吹き込んだ喜多村の2名が編集を担当することとなった。
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