Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
ヒトの免疫系には,外来抗原や自己に対する過剰な免疫応答を抑えるためのフィードバック機構が備わっている。そのような機構を免疫チェックポイント機構と呼び,複数の免疫チェックポイント分子の存在が知られている。代表的な免疫チェックポイント分子はPD-1とCTLA-4であり,共にT細胞上に発現し,リガンドと結合することでT細胞に抑制性のシグナルを入れている。ところで,がん細胞には免疫系に認識されるがん関連抗原が存在することが知られている。そのため,増殖し顕在化したがん組織に対しては,このようながん抗原を標的とした免疫反応が存在することが予想される。しかしながら,がん患者で認められるがん抗原に対する免疫反応は多くの場合極めて微弱である。腫瘍微小環境では,前述の免疫チェックポイント機構が過剰に作用し,抗腫瘍免疫を抑制しているため,腫瘍の免疫回避が起こっていることが近年明らかになってきた。実際に,免疫チェックポイント経路を阻害する抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体は,T細胞を活性化させ抗腫瘍免疫を増強することで腫瘍細胞を排除することができるため,様々ながん腫で臨床応用されている。
皮膚を原発臓器とした非ホジキンリンパ腫である皮膚リンパ腫の70-80%はT細胞性であり,皮膚T細胞リンパ腫(cutaneous T-cell lymphoma;CTCL)と呼ばれる。CTCLには複数の病型が含まれているが,代表的な疾患は菌状息肉症(mycosis fungoides;MF)とセザリー症候群(Sézary syndrome;SS)である。MFは,皮膚に紅斑や浸潤局面が多発し,年余にわたって経過する生命予後良好なCTCLとされているが,一部の患者は腫瘤形成やリンパ節浸潤,内臓浸潤を伴う進行期に進展し,不良な経過をたどる。SSは紅皮症(全身の皮膚の80%以上に紅斑,浸潤局面などを呈する状態),末梢血中腫瘍細胞,表在リンパ節腫脹を三主徴とする進行の速いCTCLである。MF,SSの腫瘍細胞はCD4+ CD45RO+のメモリーT細胞由来で,Th2や制御性T細胞のフェノタイプを一部有しており,一部の免疫チェックポイント分子が発現していることが報告されている。それらの分子がMF,SSの進展や免疫回避において,どのような役割を担っているのかは非常に興味深い。本稿では,MF,SSにおける免疫チェックポイント分子およびその周辺の分子の発現や機能について概説する。
Copyright © 2020, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.