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あとがき
松田 道行
pp.186
発行日 2017年4月15日
Published Date 2017/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425200606
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学生の頃,細菌学に対しては古色蒼然としたイメージしか持つことができず,まったく勉強する意欲がわかなかった。今は高名なK教授とともに助教授室に呼び出されて,口頭試問でかろうじて落第を逃れたのは懐かしい思い出である。しかし振り返りみれば,分子生物学黎明期のDNA組替え技術,最近では遺伝子編集技術や光遺伝学などの新技術を生み出し,さまざまな概念のパラダイムシフトを誘導してきたのは細菌学研究である。一方,本特集にみるように,次世代シーケンサーの登場により始まったメタゲノム解析は,純粋培養という細菌学研究ではMUSTと思われていた研究ステップを省略することを可能とした。もちろん,ゲノム情報から細菌の本質に迫るには細菌培養は必要ではあろうが,従来の純粋培養では研究が立ち行かないことも明らかである。細菌学に限らず,研究の潮流は多様性と相互作用の理解へ向かっている。ひとつの細胞,ひとつの遺伝子,あるいはひとつの病原体で説明できるような現象はほぼ出尽くして,異なる種類の細胞・細菌集団の構成因子間の相互作用が,どのように最終的アウトプットを決めるのかを解明することがこれからの研究の方向性であることは本特集を見ても明らかだ。皮肉なことに,医学生物学の多くの研究分野が単一分子の解析から多様性の理解へと舵をきる中,人間社会では“多様性の排除”がトレンドになりつつあるのは嘆かわしいことだと思う。
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