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脳神経回路は,成熟したのちもシナプス・レベルにおいて解体と再編を繰り返し,神経回路を機能的に改変することによってまわりの環境に適応し,高等動物らしい高度な行動レベルを維持していく。このような解体と再編の形質は可塑性と呼ばれ,学習や記憶の基礎的な基盤となっている。神経が外界からの入力変化によってその受容の仕方が変化するということは,シナプス長期増強などを含め,古くからよく研究されてきた。ただ,シナプスで実際に分子のレベルでどのような改変が起こっているのかは,顕微鏡技術の飛躍的な進歩が起こる最近までほとんど解明できない状態でいた。それと同様に,シナプスの経験依存的な変化には神経細胞間のタンパク質のやり取りが重要な役割を担っていることは近年までよくわかっていなかった。
筆者らは成体の神経回路において,ショウジョウバエの視神経という単純なシステムに目を向けて,外界からの刺激に対する要・不要シナプスの解体と再編が存在することを見いだした1)(図1)。それによって,視神経系は寿命の短いショウジョウバエが成体になってからも神経回路を柔軟に可塑的な変化をする数少ない神経システムであることがわかった。筆者らはこの柔軟で単純なシステムを用いて,そのシグナルの一つとしてWNTが働くことを示し,後シナプスから一部のシナプス除去・付加を働きかけることを見いだした。そこで,要・不要を規定するシグナルは,ほかにどのようなものがあるか,それらはどのように時空間的に制御され,脳の機能の改変につながっているのか,その遺伝子機能の破綻による神経疾患との関連を解明することを目的に研究を行っている。ここでは,この研究に至った背景と,最近の成果を概説する。
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