Japanese
English
特集 脳科学の進歩―最近のトピックス
神経機能回復の基礎過程としてのシナプス可塑性
Molecular mechanisms of synaptic plasticity:Current topics in brain science.
幸田 和久
1
,
柚﨑 通介
1
Kazuhisa Kohda
1
,
Michisuke Yuzaki
1
1慶應義塾大学医学部生理学教室
1Department of Physiology, Keio University School of Medicine
キーワード:
シナプス可塑性
,
海馬
,
小脳
,
NMDA受容体
,
δ2受容体
Keyword:
シナプス可塑性
,
海馬
,
小脳
,
NMDA受容体
,
δ2受容体
pp.19-25
発行日 2014年1月10日
Published Date 2014/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552110361
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はじめに
われわれの脳は数百億個の神経細胞(ニューロン)とその数を上回るグリア細胞から構成されている.1個のニューロンは数千から数十万のシナプスを介して,他のニューロンからの情報を膜電位の変化という形で受容し,それらの総和が閾値を越えた時に活動電位を発生させて,次のニューロンに情報を伝達する.つまり,ニューロンはシグナルをアナログ(A)形式(膜電位の変化)で受け取り,デジタル(D)形式で出力する(活動電位の発生),アナログ-デジタル(AD)変換素子であり,脳はその集合体である.神経系を有する生物が,時々刻々の感覚情報の入力に対して,行動を変化させることができるのは,細胞レベルにまで還元してしまうと,シナプス入力に対するニューロンの出力が変化しうるからである.通常,活動電位の閾値が変化することはないので,つまりは他のニューロンからの入力への反応の変化が起こっているのである.このシナプスの伝達効率の変化のことをシナプス可塑性という.シナプス可塑性は生物が環境情報を記憶・学習し,ステレオタイプでなく,環境適応的に反応するための基本的メカニズムの1つである.また,薬物依存の形成や神経因性疼痛などの病的状態にも,病的なシナプス可塑性として関与することが知られている.さらには,神経機能回復訓練や精神療法の際にも,新しいシナプス可塑性が脳内において生じているものと考えられている.本稿では,シナプス可塑性のなかでも,長期可塑性のメカニズムを概説し,さらに筆者らが研究する小脳プルキンエ細胞におけるシナプス可塑性についての最近の知見を解説する.
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