--------------------
あとがき
松田 道行
pp.188
発行日 2025年4月15日
Published Date 2025/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.037095310760020188
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
2000年来,蛍光タンパク質を使ったバイオセンサーの開発に携わってきました。研究を始めたころ,「闇夜に鉄砲を撃つ」開発スタイルにうんざりして,「合理的にデザインできないのか?」と中村春木先生に相談し,“無理”と一蹴されたのを懐かしく思い出します。本特集を読んで,無理と言われたことが現実になりつつあることを実感するとともに,「なんで,自分でやろうと思わなかったのだろう」と忸怩たる思いです。研究人生を振り返ると,ノーベル賞のネタなんてものはそこら中にあったのに拾い損ねまくったという後悔の念ばかりです。若い研究者の方々には,専門家が「無理」と言った時こそがチャンスだと思ってほしいものです。
『生体の科学』の編集には2013年から参加させていただきました。この間,多くの邦文科学雑誌が廃刊していきました。現在の情報社会の問題は,Paul Simonの歌にあるがごとく「a man hears what he wants to hear」が加速する仕組みです。出版社が「大勢が知りたい情報」を押し付けて利益を上げようとするのは当然でしょう。しかし,それではWebに氾濫する情報と変わらなくなるとも危惧します。『生体の科学』は,むしろ「探せば見つかる」お宝的な価値を発信していくのがよいのではないかと最近は考えるようになりました。10年以上も編集委員を務めさせていただき,この間お世話になった,編集委員諸兄,医学書院のみなさま,そしてなによりも多忙な時間を縫ってご寄稿いただいた多くの研究者のみなさまに深甚なる感謝の意を表し,最後の筆を擱きたいと思います。

Copyright © 2025, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.