特集 質感脳情報学への展望
特集によせて
小松 英彦
1
1自然科学研究機構 生理学研究所
pp.254
発行日 2012年8月15日
Published Date 2012/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425101295
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われわれは視覚や聴覚や触覚の感覚刺激入力をもとに,物体の素材や状態をやすやすと認知することができる。例えば見ただけで物体が金属でできているとかガラスでできているとかゴムでできている,といったことがわかる。また,野菜が新鮮であるか少し古くなっているか,といったことがわかる。地面が乾いているか濡れているかがわかる。このように感覚情報をもとにして物の素材や表面の状態を推定する機能が質感認知である。また,見ただけで触った感じがわかるというように,質感認知においては感覚種を超えて事物を統一的に認識する働きが顕著にみられる。質感認知のもう一つの重要な側面は,嗜好や情動と密接にかかわっていることである。例えば野菜や肉の鮮度を判断したり,肌の状態から健康状態や年齢を読み取る。また,陶磁器の柔らかい光沢やガラス細工のきらめきは人を吸い寄せる。素材や表面の状態の認知はそれだけにとどまらず快や不快の情動を生み出し,事物の価値判断や意思決定にまで影響する。このような嗜好や情動,価値判断と関係する部分を感性的質感認知と呼び,価値判断と中立な意味での質感認知と区別する。
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