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トライボ工学,生体材料学や生体運動学などの学際領域の進歩や様々な臨床経験の積み重ねを経て人工股関節インプラントは改良され,様々な機種が臨床の場で使用されている.今回は骨セメントにスポットを当て,人工股関節手術における骨セメント使用時の工夫と問題点について誌上シンポジウムを企画する機会をいただいた.
ポリメタクリル酸メチル(polymethylmethacrylate:PMMA)を主成分とする骨セメントには長い歴史がある.骨セメントが世に出るきっかけとなったのは1901年,化学者Otto Röhmによってアクリル酸の重合に関する学位論文が出され,翌年,ガラスのように固い物質としてPMMAが“Plexiglas”という名前で世に知られるようになってからであった.しばらくして,1928年にRöhmとHaasがPMMAをプラスチック素材として用いる特許を取得している.また1936年にはKulzer社が粉体のPMMAと液体のメタクリル酸メチル(methylmethacrylate:MMA)モノマーを混合する際に過酸化ベンゾイル(benzoyl peroxide)を添加すると発熱しながら固くなることを見いだして特許を取得している9).生体への最初の応用は猿の頭蓋骨の骨孔閉鎖に用いられた1938年とされる8).硬化促進剤の工夫により常温での自己硬化を可能として,その手順を確立したのはDegussa-Kulzer社で,1943年にPMMA骨セメントの特許取得を取得している.このような一連の研究からPMMA骨セメントが誕生している.最初に関節置換のインプラントの固定に自己硬化性の樹脂を応用したのは1949年のデンマークのKaierとJansenとされ10),続いて1951年に米国のHouboushがインプラントの固定にセメント応用している6).1958年,股関節手術で人工骨頭置換用のインプラントをPMMA製の骨セメントで大腿骨に上手く固定しうることを示したのはCharnleyで,その成果を1960年に報告している3).以来,人工股関節インプラントの固定にも臨床応用されながら4),改良が重ねられ,今日に至るまで骨セメントは整形外科領域,とりわけ人工関節ではインプラントの固定,間隙充塡を目的に使用されている.
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