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現在,“脂質”には多くの注目が集まっている。食生活の欧米化やカロリー過多,慢性的な運動不足に伴うメタボリック症候群の発症頻度の上昇が社会的問題となり,それに危機感を覚える人々の健康志向が高まってきている。いわゆる“血液サラサラ化”を目指す,EPAやDHAなどの多価不飽和脂肪酸含有サプリメントの売り上げも伸びている。スーパーマーケットに並ぶ植物油のラベルにも,健康志向をうたうものが増えており,一般の方々の脂質に対する興味は大きくなる一方である。そのような中で,“脂質研究”も大きな展開と発展をみせている。その最も大きな要因は,質量分析機の普及,高感度化と解析技術の向上である。液体高速クロマトグラフィーに四重極型の質量分析計を連結することで,様々な脂質の分離と定量が同時に行えるようになった。感度の上昇は著しく,これまでの解析の中心であったターゲットリピドミクス(解析対象脂質をあらかじめ決めておく高感度解析)に加えて,ノンターゲットリピドミクス(解析対象をあらかじめ設定しない解析)によって,一検体から数万種の脂質分子を同定することが可能な時代となった。また,薄切した試料をピクセル単位で解析することで,脂質の分布を可視化する質量顕微鏡も実用の域に達している。現在の質量顕微鏡解析の中心は比較的存在量が多い細胞膜リン脂質であり,その解像度は数ミクロンから数十ミクロンであるが,近い将来,より含有量の少ない脂質を対象として,より高解像度の解析が成し遂げられることが期待される。
世界的にみても,“脂質研究”における日本人研究者の貢献は大きく,特に生理活性脂質とその受容体の研究分野では世界をリードする研究成果を挙げてきた。それが評価されたためか,平成22-26年度「脂質マシナリー」(代表:横溝岳彦),平成27-31年度「リポクオリティ」(代表:有田 誠)の二つの文部科学省科研費・新学術領域が連続して立ち上がり,国内横断的な脂質研究が行われている。また,平成27年度からはAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)においても“機能性脂質”領域が立ち上がり,国内の脂質研究を支える体制ができあがった。
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