Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
一般に,エネルギー摂取がエネルギー消費を超えるような場合には体重は増加し,エネルギー消費が摂取を超えるような場合には体重は減少する.つまりエネルギー摂取過剰状態が続けば体重は増加し続けると考えられるが,実際は「体重が増えていく一方」という例はそう多くなく,肥満度に個人差はあるにしても健康人の体重は比較的一定に保たれる.もちろんこれは,エネルギー摂取過剰を自覚した人が食事制限や運動などを行って減量に努めることに起因する部分もあると思われるが,とくに努力しているわけではないが何年も体重が変わらないという人も少なくない.このことから,たとえばエネルギー摂取過剰状態では,エネルギー摂取抑制あるいはエネルギー消費の亢進を起こすような体重の恒常性を維持するような機構が存在する可能性が考えられる.体重の恒常性を維持するためには代謝に関わる各臓器が協調して働く必要があり,さらには各臓器の協調をより高位で制御するシステムが必要となるはずである.これまで栄養素や液性因子を介した臓器間連関による各臓器の協調機構が報告されていたが,その機構を個体の代謝状態の方向性に導くシステムがどのようなものなのかについてはまったく明らかになっていなかった.その意味において中枢神経は各臓器と神経線維によるつながりを有し,各臓器の協調的な制御を行うための必要条件を満たしており,その候補となりうると考えられた.
われわれはこの点に注目して研究を進めた結果,これまでに,内臓脂肪からの神経シグナルが中枢神経に伝達され摂食の調節に関与すること1),あるいは肝臓からの神経シグナルが中枢神経を介して全身のエネルギー消費とインスリンの効きやすさ(インスリン感受性)を調節すること2),寒冷刺激による交感神経の活性化が脂肪組織において善玉アディポカインとして知られるアディポネクチンの産生を抑制すること3)などを報告してきた.これらの結果からわれわれは中枢神経が液性因子や神経シグナルを介して各臓器を協調させ,全身における代謝調節を統御しているという新しい概念を提唱した(Box 1)4).
本稿ではこれらの報告をもとに,神経シグナルを介した臓器間ネットワークによる代謝制御について概説し,あわせて最近筆者らが明らかにした肝臓からの神経シグナルを介した膵β細胞制御機構についても紹介する5).
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.