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細胞の遺伝情報であるDNAは,外来性(電離放射線,紫外線,DNA障害性薬物など)および内因性(フリーラジカル,細胞内代謝産物など)の要因によって,絶え間なく損傷されている。DNA傷害を受けた細胞は細胞周期の進行を停止させること(細胞周期チェックポイント)で,DNA修復に必要な時間を生み出している。また,修復機能を上回るDNA損傷や欠損の場合は細胞周期の進行を半永久的に停止したり(細胞老化),細胞死を導いたり(アポトーシス)して,傷害細胞を増殖細胞集団から排除する。このようなDNA損傷応答は,(ヒトでは約60兆個の細胞からなる)個体全体における遺伝子(ゲノム,染色体)の恒常性を維持するうえで必須の役割を担っている1,2)。
DNA損傷から細胞周期停止に至るチェックポイント機構においては,まず,ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3キナーゼ)類縁の二つの蛋白質リン酸化酵素が重要な役割を担っている(図1)。一つは,ATM(ataxia-tel angiectasia mutated;毛細血管拡張性運動失調症[AT]の原因遺伝子として同定されたことが名前の由来である)で,主に(電離放射線などで引き起こされる)DNAの二重鎖切断の際に活性化される3)。もう一つは,ATR(ATM-and Rad3-related)で,DNA修復過程などで生じる一本鎖DNAによって活性化される4)。このように活性化したATM,ATRは,それぞれ,チェックポイントキナーゼ2,1(Chk2,Chk1)をリン酸化することで活性化へと導く(図1A)。Chk2,Chk1はチェックポイントシグナルをDNA損傷部位から核全体に伝えるトランスデューサーとしての役割を担っている。以下に細胞周期停止に至る分子機構を各シグナル伝達経路に分けて概説する。
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