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哺乳類の肺や乳腺,ショウジョウバエの気管や唾液腺など,生命活動に必須なこれらの器官の多くはすべて上皮チューブから成る。それぞれサイズや形は異なるが上皮細胞の集団が形成する均一な細胞シートであるという点は広く保存されている。これらの複雑に分岐した肺などの器官はどのようにして形成されるのであろうか。例えば網目状に広がったハエの気管支は上皮細胞の集団から成るチューブが伸長(移動),出芽,分枝といった形態変化を繰り返すことで形成される。しかし,上皮細胞集団の秩序だった動きだけでは複雑に分枝した非対称な器官を生み出すことはできないであろう。ときに上皮細胞集団の中の一部の細胞(群)や移動する先端の細胞が形態変化を起こす必要がある。上皮細胞は周辺組織とのシグナルのやり取りによって,遺伝子発現の変化を伴った細胞骨格の再編成や極性の変化などを引き起こすことで,細胞の形態変化や移動方向の転換などを起こす。いわば,均一な細胞群の中で一部の細胞のみが特異化(specification)されることで生み出されたある種の不均一性が,非対称で複雑な形態形成を成し遂げるための重要なファクターになるとでも言えよう。しかしながら,このような器官形成の際に起こる細胞骨格調節機構の全貌は明らかにはなっていない。これらの器官が生命活動に必須であることや,in vivoでのライブイメージング解析が困難であることが主な理由であると思われる。ゆえに,これら器官の形成メカニズムの解明には古くから遺伝学的操作に長けたハエや線虫などの小さなモデル生物が多大な貢献をしてきた。
本稿では筆者らが線虫C. elegansの生殖巣形成モデルの解析から明らかにした器官形成過程に起こる先端細胞での細胞骨格制御機構を,調節因子スペクトラプラキンの機能解析を中心に,他種との比較を踏まえつつ概説したい。
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