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細胞運動は発生過程における形態形成,神経ネットワーク形成,創傷治癒,免疫応答,がん細胞の浸潤・転移など,様々な生理・病理現象において中心的な役割を果たしている。細胞外からの刺激に応答して,細胞内ではアクチン細胞骨格の動的な再構築が起こる。細胞の移動方向の先端部(先導端)ではアクチン線維の迅速な重合によって細胞膜が前方に押し出され,フィロポディア(糸状仮足)やラメリポディア(葉状仮足)と呼ばれる膜突出構造が形成される。また,後方ではアクチン-ミオシンからなる収縮性のストレスファイバーが形成され,その収縮力によって細胞の後端が細胞体側に引き寄せられる。前方に押し出された部分では,新たな基質-細胞接着部位が形成され,後方では退縮にともなって接着構造が消失する。基本的にこの繰り返しによって細胞は移動していく1,2)。これらの構造の形成にはRhoファミリー低分子量G蛋白質のRhoA,Rac,Cdc42が関与していることがよく知られている。
RhoAはストレスファイバーを,Racはラメリポディアを,Cdc42はフィロポディアを,それぞれの標的蛋白質を介して誘導する2,3)。RhoAはROCKやmDiaなどを活性化する。Ser/ThrキナーゼであるROCKは多くの標的蛋白質をリン酸化する。ROCKはミオシン軽鎖ホスファターゼの結合サブユニットのリン酸化・不活性化を介して,ミオシン軽鎖のリン酸化を亢進させる。また,ROCKはLIMキナーゼをリン酸化して活性化し,アクチン脱重合因子コフィリンのリン酸化・不活性化を促進する。RhoAによって活性化されたforminファミリー蛋白質mDiaはアクチンの新規重合を促進する。これらの結果として,ミオシン-アクチン相互作用およびアクチン線維の重合が促進され,ストレスファイバーが形成される。RacおよびCdc42はWASPファミリー蛋白質のWAVE,N-WASPを介してArp2/3複合体を活性化し,新規のアクチン重合を誘起する4)。Arp2/3複合体はアクチンの重合核として機能するとともに,アクチン線維の側面に結合し,ラメリポディアに特徴的な枝分かれしたアクチン線維からなる網目構造を形成する。フィロポディア内のアクチン線維は網目状ではなく直線状に束ねられた形態をとっているが,これにはアクチン束化蛋白質や,枝分かれのないアクチン線維の重合を誘導するforminファミリー蛋白質などの関与が考えられている。
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