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はじめに
ミトコンドリア(mt)は細胞の呼吸とそれに伴うエネルギー供給を担う主体である。全ての生命活動はこのエネルギー産生(酸化的リン酸化系)によって支えられていると言っても過言ではない1)。神経系においては,各脳器と比較してミトコンドリアの呼吸が最も盛んに行われている。神経終末や神経突起にはmtが多く集積して,情報伝達に伴う活発なエネルギーの供給を担っている。従って,mtの酸化的リン酸化系の障害は神経系の機能低下に直結する。中枢神経系が虚血・一酸化炭素中毒などによって各脳器中で一番敏感に重篤な機能障害,さらに変性・壊死といった器質的病変が生じることを想起すれば,mt酸化的リン酸化系の神経系における重要性は十分理解しうる。また筋肉組織が日常的に多くのエネルギーを消費することは論をまたない。同時に神経細胞と骨格筋線維は,細胞分裂終了細胞であり,mt酸化的リン酸化系の遺伝子であるmt固有のDNA(mtDNA)の変異が蓄積されやすい。変異mtDNAの蓄積が一定の閾値を越えれば,虚血・中毒の場合と同じく,細胞の変性・壊死・脱落が生じる。したがって,mtDNA変異はその表現型(phenotype)としてmt脳筋症として発現する頻度が高く,早くから臨床的に注目され,mt形態変化,高乳酸血症が診断基準とされてきた。mt遺伝子変異の分子医学的解析が可能となった結果,表現型とmtDNA変異のタイプに一定の相関があること,mt—DNA変異を起こす機序について解明が進んだ。また最近の遺伝子解析技術の長足の進歩によってmtDNA変異の表現型として,mt脳筋症の外にも多くの疾患があることが判り,mt脳筋症も"mt遺伝子病(mitochondrialDNA disease)"の一つとして捉えられるようになってきた。
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