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あとがき
岡本 仁
pp.348
発行日 2012年8月15日
Published Date 2012/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425101308
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目指すべき「質感」とは何かを知り,それを作品に再現することが,古来名工といわれる人々の目指すところであったに違いない。インターネットで「上質感」というキーワードに検索すると,製品の上質感を言葉で訴えるのに,どれだけ企業が努力しているかがよくわかる。曰く,「丸みをおびたやさしいフォルム,さらりとしたここちよい感触のスムーステクスチャーが特長の上質なデザイン。さらに,ガラスのような新しい質感のクリアタッチパッド(パソコン/ソニー・バイオ)」「背面カバーのテクスチャーデザインを始め,センサーキーを採用した滑らかなタッチパネルなど,細部まで吟味された使い心地への追求が,これまでにはない上質感を醸し出します(携帯電話/シャープ・アクオスフォン)」「唇に集めた光をしっかり反射,上質感あふれるダイヤモンドのような“キラキラ唇”を演出します(口紅/メイベリン)」。初代柿右衛門の昔から「上質感」とは何かを究めるために,匠たちは営々と努力を払ってきた。これまでこのような行為では,経験によって研ぎ澄まされた感性のみが探索の道しるべとなると信じられてきた。したがって,質感も感性もいわば“わかる人にしかわからない”領域のものとして取り扱われてきた。
本特集では,新学術領域研究で質感の理解に取り組んでおられる,小松英彦先生をはじめとする8名の先生方に,質感の脳科学的,工学的理解がどのように統合されつつあるかを展望していただいた。やがて研究が発展し,筆者のように無粋な,“わからない人”でも質感を語れる時代が来ることを期待しています。さらに,3名の方々に連載講座,実験講座,解説をご執筆いただきました。重ねて厚く御礼申し上げます。
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