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意識とは,脳が特定の情報処理を行っているときに,それを行っているという自覚を持つことではないかと思います。私は今から30年ほど前に3年間米国に留学しました。初めの2年は単身で,周囲に日本人もいなかったので,英語だけに取り囲まれる生活を送っていました。2年目に入った頃,自分の脳の中に英語で話す自分をモニターするもう一人の自分がいて,その高次の自分が,自分が表明したい内容の構造だけを非言語的に考え出し(例えばA=B,A>Bなど),低次の自分がこれを特定の言語に当てはめるという階層的な言語処理を自覚するようになりました。この後,英語でコミュニケーションするときに日本語で考えてから英語に翻訳するという作業をする必要がなくなりました。自分を見つめるもう一人の自分の存在を仮定する階層的情報処理の自覚は,感情的な表現を発出するときにも,それが理にかなっているかどうかを一歩離れてモニターでき,この後の私に英語表現以外でも大変役立っています。一人で異言語の世界に囲まれて,自分を見つめざるを得ない環境に置かれて,それまで「無意識」に行っていた言語処理が意識に上って,初めて可能になった内省の結果悟ったことかもしれません。それ以来私は,脳がこのような意識的情報処理をどのように行っているのかという問題に脳科学が迫ることができるのかに関心を持ち続けてきました。本特集号では,そのような問題に正面から取り組み,これまで精密科学の対象とすることが困難であった意識という対象に,方法論の構築から測定技術の開発までを新たに行うことによって,新しい研究を切り拓いている先生方を,編集にあたられた吉田先生のご尽力でお迎えすることができました。更には,萩原先生,久保先生には,新しく芽生えつつある新技術の紹介をお願いできました。すべての執筆陣の先生方に,深く感謝いたします。
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