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RNA干渉(RNAi)は,二本鎖RNA(dsRNA)やマイクロRNA(miRNA)に代表される機能性RNAが,RNA分解酵素であるAgoファミリーらとRNA-induced silencing complex(RISC)と呼ばれるRNA-タンパク質複合体を形成し,相同的な配列を有するmRNAを認識し,そのmRNAを分解あるいはそのmRNAからの翻訳を阻害することによる,転写後遺伝子発現制御機構である。RNA干渉は1990年代に植物で報告されていたが,FireとMelloが1998年に線虫でも誘導可能であることを発見した1)。彼らはこの発見により2006年にノーベル医学生理学賞を受賞した。発見からノーベル賞受賞までが短期間であったことからもわかるように,RNA干渉の発見が生命科学に及ぼした影響は非常に大きい。
線虫で発見されたRNA干渉の哺乳類への適用は,RNA感染に対する防御機構である長い二本鎖RNAに応じたインターフェロン(IFN)応答によって妨げられていたが,2001年には19塩基対の短い二本鎖RNA(siRNA)を用いることでIFN応答を誘導することなくRNA干渉を誘導可能であることが報告された2)。siRNAによる遺伝子発現抑制は容易に誘導可能であり,その遺伝子発現抑制効果は配列特異的かつ強力であることから,瞬く間に実験ツールとして定着した。RNA干渉の発見によって,従来見過ごされてきたnon coding RNA(ncRNA)の役割にも注目が集まった。その結果,ncRNAの一部がmiRNAとして働く,あるいはその他の機構に基づき多数の遺伝子の発現を制御していることが明らかにされた。これらの結果から,miRNAについては診断マーカーとしての探索や,病態への関与に関する研究が先行しているが,それだけでなく疾患原因となるmiRNAの機能阻害,あるいは疾患時に低下するmiRNAの補充による疾患治療も試みられ,その一部についてはすでに臨床治験が開始されている。また,siRNAについてはその特性から病因遺伝子の発現を抑制することによる医薬品としての開発が望まれている。
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