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RNAi(RNA interference,RNA干渉)とは,二本鎖RNAの片一方のRNA鎖が細胞質に存在するRNA inducing silencing complex(RISC)と呼ばれるタンパク質複合体に取り込まれた後に,相補的な配列を持つmRNAと結合し翻訳を抑制することで,その遺伝子の発現を抑制する現象のことである。1998年にFireらにより線虫においてRNAiが発見され1),その後,3'末端に2塩基のオーバーハング構造を持つ21塩基の化学合成RNA(short interfering RNA:siRNA)を用いることで,哺乳類細胞においても重篤な副作用を惹起することなくRNAiを誘導可能であることがTuschlらにより報告された2)。配列さえ明らかになれば理論的にはゲノム上のどの遺伝子でも発現抑制可能であるというその性質から,現在ではsiRNAをウイルス感染やがんなどの難治性疾患に対する治療薬へと応用する試みがなされている3)。しかしながら,siRNAを治療用分子として応用するためには克服すべき課題も多い。
siRNAは水溶性の高分子であるため,そのままではその機能する場である細胞質へと細胞膜を透過して集積することはない。また,全身投与による治療を考えると,siRNAは体液中に豊富に存在するRNA分解酵素に非常に感受性が高いこと,加えて腎臓において糸球体濾過を受けることから,そのままの形では速やかに血中から消失してしまうことが問題となる。これらのsiRNAの欠点を補うために,siRNA自体に分解を防ぐための化学修飾を施す試み4),siRNAに直接コレステロールなどの機能素子を結合させることでsiRNAのバイオアベイラビリティを上げる手法5),さらにはsiRNAと複合体を形成するカチオン性ポリマーやリポソームを利用することで細胞内の取り込みを上昇させる試みなど数多くの研究が行われてきた6)。このように多数の試みがなされたにもかかわらず,いまだsiRNA医薬が上市に至った例はない。その理由として,siRNAが血中に投与されてから機能を発揮するまでには,上記に挙げたような体内動態・細胞内動態にかかわる幾重ものバリアのそれぞれを段階的に克服しなければならないという複雑性が挙げられる。しかしながら,これまでの多くのsiRNAキャリアはカチオン性のポリマーやリポソームなどとの単純な混合によって調製されたものであり,それぞれの機能素子が必要なタイミングに機能するように配置することが困難であった。
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