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[用いられた物質/研究対象となった受容体]
オレキシン,ケタミン,MK-801/OX1受容体,NMDA受容体
ノルアドレナリン(NA)は中枢神経系での主要神経伝達物質の一つであり,意識の制御に重要な役割を果たしている。脳内NA分泌ニューロンの50%以上は青斑核からの投射であり,青斑核からの軸索は背側被蓋NA神経束を形成し,海馬,扁桃体などに軸索側枝を出しながら大脳皮質の全域に投射する。さらに,別の経路を通って小脳および脊髄へも投射する。興味深いことに,大脳皮質へのNA分泌ニューロンの投射はほぼ全て青斑核からである。青斑核の神経活動およびNA放出は,覚醒からノンレム睡眠,レム睡眠へと移行するにつれ減少していき,レム睡眠中は停止する。
意識消失は,中枢神経が低体温,鎮静剤などにより抑制されて生じる一方で,過興奮でも生じる。例えば,ロックコンサートなどで熱狂的なファンは興奮のあまり失神することがあるし,てんかん発作でも意識は消失する。よって,意識に関与する脳内NA分泌ニューロンの活動も,生理的範囲内でのみ意識は保たれ,活動が範囲外(低下または過興奮)では意識は消失するという仮説のもとに研究を行ってきた。全身麻酔では,GABAA受容体作動型(GABA型)麻酔薬のプロポフォール,ミダゾラム,ペントバルビタールによる麻酔では,マイクロダイアリーシス法で大脳皮質NA放出を測定すると,NA放出が基礎値の約25-30%減少した。これとは対照的に,NMDA受容体抑制型(NMDA型)麻酔薬のケタミン,亜酸化窒素,キセノンによる麻酔では,NA放出は基礎値の約5倍まで増加した。このように,GABA型麻酔薬ではNA分泌神経ニューロンは抑制され,NMDA型麻酔薬では過興奮となる。覚醒系モノアミンであるNA放出の増加の生理的範囲を調べるため,α2拮抗薬ヨヒンビンや抗コリンエステラーゼ阻害薬フィゾスチグミンなどで検討した結果,NA放出量が基礎値の2-2.5倍までであれば覚醒は増加し,4-5倍を超すと逆に覚醒減少に転じることがわかった。
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