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1 睡眠と学習
睡眠脳波研究の創始期にAserinskyら1)によりREM(rapid eye movement)睡眠中に覚醒時と類似の皮質活動が起こっていることが発見され,その後Rechtschaffenら2)やDementら3)により,その他のnon-REM睡眠中にも比較的覚醒時に近い脳活動が混在していることが指摘された。これ以降,睡眠時の脳活動の意義に関して様々な議論が交わされ,睡眠と記憶の連関も推測されてきたが,決定的な証拠は見出されなかった。その間,1970年代以降,睡眠学習といったエビデンスの薄い民間信仰がトピックとなり,記憶枕などの商品が数多く販売され世間を賑せている中,睡眠と記憶の議論は急速に収束してしまった。最近の10年間でこの脳活動が学習機能と関連している決定的な証拠が多く見出され,睡眠中の脳活動には覚醒時に学習した内容を定着・強化する過程が含まれることはほぼコンセンサスを得るに至っている。REM睡眠中には夢の報告が多いことから,夢の意義に関して記憶・学習機能と関連付けて論じられることが多いが,その他の睡眠状態も記憶・学習機能に影響を与えている可能性が示唆されており,夢との関連はいまだ多くの研究者の興味の対象である。
意味や知識,生活史などの言語的に再現可能な記憶を陳述記憶と呼ぶのに対し,手続き記憶とは,手作業や自転車・自動車の運転,スポーツのテクニックなど,言語的ではなく身体動作を伴い再現される記憶を意味する。手続き記憶はヒトに限らず全ての動物に必須の機能であり,これが優れている個体ほど,生存競争を勝ち抜くチャンスがより多いと考えられる。睡眠の主な役割である疲労回復・損傷修復といった脳・身体活動の恒常性維持とともに,睡眠は記憶・学習という積極的な適応行動にも重要な役割を果たしており,まさに覚醒中の活動をフルサポートしていると考えられている。
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