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ヒトは人生の約3分の1を眠って過ごす。しかし,ヒトを含めた多くの動物がなぜ眠るのか,眠らなければならないのか,という問いに対する明確な回答をわれわれはいまだ得ていない。睡眠の意義については古くから,エネルギーの節約のため,覚醒中の活動により高まった脳の温度を下げ,あるいは蓄積した老廃物の除去するため,など種々の仮説が提唱されてきた。近年,睡眠の脳の可塑性現象への関与が注目されており,例えば,睡眠中には覚醒時に体験した事柄の記憶の定着が起こること,また学習した内容が睡眠時に時間圧縮された状態でリプレイされていることなど,様々な事象が報告され1),睡眠が記憶・学習といった脳の高次機能に影響を与えうる,積極的な過程であることが示唆されている。実生活上でも,試験勉強などをした後に睡眠を取ると,覚えた事柄が整理されて想起しやすくなる,といった経験則を耳にする機会は多い。
では,睡眠はどのようなメカニズムを通じて,これら可塑性現象など脳の情報処理過程に影響を与えるのだろうか。それを知るためには,睡眠・覚醒中に大脳皮質の個々の神経細胞に生じる変化をシナプスレベルで明らかにする必要がある。睡眠中の哺乳類の脳波パターンは,睡眠の種類に依存して変化する。睡眠には「REM(Rapid Eye Movement)睡眠」と,それ以外の「non REM(NREM)睡眠」があるが,REM睡眠時には覚醒時に近い,比較的周波数の高い低振幅の脳波が,またNREM睡眠時にはゆっくりとした振幅の大きな脳波が出現する。NREM睡眠は,ヒトにおいては脳波の周波数成分や振幅,また睡眠の深さの程度などから,さらにステージ1から4までに細分される。このうち,ステージ3と4は特に徐波睡眠(slow wave sleep:SWS)と呼ばれる深い睡眠であり,脳波にも大振幅徐波が現れる(図1)2)。
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