Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
実験的に誘導した培養細胞の細胞死の形態を観察する時に,いつも感じることはその多様性である。しかし,リンパ球をはじめある種の細胞では,いわゆる,典型的な細胞死,特にアポトーシスの形態を見ることができる。一つには,細胞内オルガネラに乏しく,細胞形態が複雑化する要因が少ないことに起因するのかもしれない。生体の組織における細胞死も同様で,胎生期の形態形成で見られる細胞死は,リンパ球のそれに近い。一方,神経系の細胞や細胞更新に伴う様々な組織の細胞死,疾患に伴う細胞死をみると,その変化が多様であることに気付く。例えば,典型的なアポトーシスの一つと考えられている,消化管上皮の死の形態を見ると,細胞の縮小化,核クロマチンの濃縮は起こるが,細胞内オルガネラは複雑な変化を呈している。よく観察すると,膜系を中心とした変化が起きており,中でもオートファゴソーム,オートリソソームの複雑な形態が出現し,これらが変化の中心であることがわかる。しかし,これらの死は,環境の変化に伴う受け身の細胞死とは違い,細胞自体に備わっている死の機構の活性化に伴う積極的な細胞死と考えられる。ここでは,ネクローシスnecrosisは受け身の死と定義し,積極的細胞死active cell death(ACD)と区別する。細胞死の形態の違いが死の分子機構の違いを反映するか否かは,不明な点も多い。
胎生期の神経系を中心にその死の形態を検討した結果,ACDは死にいく形態によって三つのグループに別けられることが報告されている1)。Ⅰ型ACDはアポトーシス(apoptosis)とよばれる死であり,ACDの多くはこれに分類される。今日ではこの死に関わる機構とその実行因子について分子生物学的な解析が進んだ結果,その全貌が明らかになりつつある。Ⅱ型ACDはアポトーシスと異なり,死にいく細胞にたくさんのオートファゴソーム/オートリソソームが誘導され,リソソーム性あるいはオートファジー性細胞死(autophagic/lysosomal cell death)とよばれる。近年,オートファジーの解析が分子レベルで行われるようになり,Ⅱ型ACDも分子レベルで検討されるようになってきた。Ⅲ型ACDは溶解細胞死(lytic cell death)とよばれ,発生初期に見られる細胞死で,突然起こり細胞が消失してしまう。その実体は全くわかっていない。本稿では,Ⅰ型およびⅡ型ACDにおいて,主役となるプロテアーゼについて概説する。
Copyright © 2003, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.