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[1] オルガネラ・ホメオスタシスを支える分子基盤と酵母細胞におけるミクロペキソファジー
膜に囲まれた巨大な分子複合体であるオルガネラがどのようにして細胞内で合成され分解されるのか,特に分解系については,つい最近まで全く明らかにされていなかった。一方,オートファジーは自分の細胞内部のものをリソソームまたは液胞に取り込んで分解するシステムである。少なくともミトコンドリアやペルオキシソームがオートファジーにより分解されることがわかってきた。特にペルオキシソームは,酵母から動植物細胞に普遍的に存在するオルガネラであり,分化の過程・薬剤応答・培養条件などに応じて,オルガネラの数や大きさが極めて大きく変化する。そのため,オルガネラ合成から分解に至るまでのオルガネラ動態を,比較的容易に制御できることからオルガネラ・ホメオスタシスの分子基盤を追跡するモデル系として極めて適している。オートファジーによるペルオキシソームの選択的分解については,特に“ペキソファジー”という名が与えられている。これは一般に栄養飢餓条件下で,非選択的に起こるオートファジーとは異なって,“被分解物であるペルオキシソームが,どのようにして細胞内で認識されるのか”という被分解物の認識機構に関する基本的な問題をペキソファジー研究が含んでいることにもよる。
さらにペキソファジーには,オートファジーと同様,その膜動態の違いによってマクロペキソファジーとミクロペキソファジーが知られている(図1)。マクロペキソファジーでは,新生した起源不明の隔離膜が,被分解物であるペルオキシソームを完全に取り囲んでペキソファゴソームを形成し,ペキソファゴソームが液胞と融合することよりペルオキシソームを液胞へ輸送して分解する。一方,メタノール資化性酵母Pichia pastorisにおいて顕著に観察されるミクロペキソファジーは,液胞が,直接,ペルオキシソームをクラスターごと取り囲み,ペキソファゴソームや隔離膜の形成なしに,ペルオキシソームを液胞に取り込むものとされている。マクロオートファジーの分子機構については多くの分子装置が明らかになりつつあるが,われわれがミクロペキソファジー変異株を単離した1996年当時,ミクロオートファジーに関与する遺伝子については何もわかっていなかった。このようにP. pastorisにおいて観察されるミクロペキソファジーは,オルガネラ・ホメオスタシスやオートファジーに関連する細胞生物学での基本的問題を解くためのモデルとして優れたものである。
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