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[1] アブラムシの必須共生細菌Buchnera
アブラムシ類は世界中で4000種以上が知られ,一生を通じて植物の汁液のみを餌とする吸汁性昆虫である。植物の師管液にはショ糖が多量に含まれるが,タンパク質や脂質はほとんど存在しない。窒素源としてはある程度の量のアミノ酸が含まれるが,その組成は大きく偏っており,必須アミノ酸の含量が低いために,普通の動物にとっては利用困難である。しかしアブラムシ類はこのような栄養的に難しい食物資源の利用に特化して,温帯域でもっとも重要な農業害虫の一つとなるほどの繁栄を実現している。その秘密は,アブラムシの体の中に存在するミクロの共生系にある。
アブラムシの体内には菌細胞(mycetocytes, bacteriocytes)と呼ばれる巨大細胞が存在し,その細胞質の中に無数の球状の細菌が共生している(図1)。この共生細菌は,大腸菌などに近縁のγプロテオバクテリアに属しており,Buchnera aphidicolaと呼ばれている1)。抗生物質や高温によってBuchneraを除去すると,アブラムシの成長は著しく阻害されて,不妊になってしまう。Buchneraの方もアブラムシの体内でしか生きていけず,胚発生や卵形成過程における垂直感染で母虫から子へと伝えられていく。栄養生理学的な解析から,Buchneraは必須アミノ酸を効率的に合成して,宿主アブラムシに供給していることが示されている2)。すなわち,宿主アブラムシと共生細菌Buchneraは,お互いなしでは生きていけない一つの生物複合体として絶対相利共生関係にある。両者の緊密な共生関係は,2億年前後の進化の歴史をもつと考えられている3)。
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