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発生過程ではきまった時間にきまったことがおこるが,その進行を制御する生物時計の実体はまったく不明であった。生物時計としては約24時間周期で発現変動する概日時計が知られているが,これでは数時間以内にいろいろなことが起こる発生過程の制御は不可能である。たとえば,体節形成はマウスでは2時間毎におこることから,2時間を刻む生物時計(分節時計)の存在が以前から示唆されていた。1997年にPourquieらによって,ニワトリの体節形成過程でbHLH型転写抑制因子をコードするchairy1遺伝子の発現が周期的に変化(オシレーション)すること,その後Pourquieや筆者らのグループによって,マウスの体節形成過程でbHLH遺伝子Hes1やHes7(chairy1ホモログ)の発現が2時間周期でオシレーションすることが報告された1,2)。さらに,Hes7欠損マウスでは体節の分節化が著しく障害され,体節由来の脊椎骨や肋骨が癒合した2)。このように体節形成におけるオシレーション分子の存在とその重要性が明らかになったが,Hesが分節時計そのものか,あるいは単に分節時計の下流ではたらくだけなのかは不明であった。
2002年に筆者らは,血清刺激によっていろいろな種類の細胞でHes1の発現が2時間周期でオシレーションすることを見出した3)。血清刺激でプロモーターが活性化されると,まずHes1 mRNAが,少し遅れてHes1蛋白が増えるが,Hes1蛋白はダイマーを形成して自身のプロモーターに結合し転写を抑制する(ネガティブフィードバック)。Hes1 mRNAおよび蛋白はともに半減期がきわめて短いので(約20分)転写が抑制されるとすぐに減少する。Hes1蛋白が減るとネガティブフィードバックは弱まり新たな転写が開始する。このように,プロモーターが活性化されるとHes1の発現は自律的にオシレーションする(図1)。このことはHes1自身が2時間を刻む生物時計の本体であることを示している。同様のメカニズムでHes7の発現も体節形成過程でオシレーションする4)。Hes7は自分自身の発現を抑制するとともに,標的遺伝子(Lunatic fringe遺伝子が知られている)の発現も同時に抑制するので,両者の遺伝子発現は同じ位相でオシレーションする(図1)。
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