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体節と分節時計
脊椎動物の咽頭期胚を概観すると,背側の中軸を頭尾方向に走る神経管(Neural Tube:中枢神経の原基)の両側に分節した繰り返し構造である体節(Somite)が観察される。原腸陥入(Gastrulation)によって生じた中胚葉のうち神経管の両側に位置した細胞集団は沿軸中胚葉(Paraxial Mesoderm)と呼ばれるが,体節はこの沿軸中胚葉が分節化し上皮様構造をとったものある。この体節を構成する中胚葉細胞は,周辺組織からの誘導をうけ,中軸骨格の原基である硬節(Sclerotome),筋組織の原基である筋節(Myotome),皮下間葉組織の原基である皮節(Dermotome)さらに中軸骨格と筋を結ぶ腱組織の原基である靭帯節(Syndetome)にそれぞれ分化し,やがて各組織を構成するようになる1)。
体節は頭方から尾方に1対ずつ一定時間間隔で形成されるため,体節の発生分化には,時間を刻む機構が深く関与しているのではないかと考えられ,Clock and Wavefront Modelという数理モデルが提唱されていた2)。実際に,このモデルで予想された現象が,ニワトリ胚の沿軸中胚葉におけるcHairly-1の遺伝子発現パターンとして観察された3)。cHairy-1はHairy型bHLHの転写因子をコードする遺伝子である。沿軸中胚葉におけるその発現は,極めて周期的かつ動的で,まず周期の初期には沿軸中胚葉の尾方約半分の領域で発現し(第Ⅰ相:Phase Ⅰ),やがてその発現領域は頭方に遷移し,狭まって,沿軸中胚葉の中ほどでストライプを形成する(第Ⅱ相:Phase Ⅱ),さらに発現領域は頭方に移動し,もっとも新しく形成された体節より体節一つ分尾方に離れたところ(次の体節分節となるところ)で,さらに細いストライプ様に発現する(第Ⅲ相:Phase Ⅲ)4)。この三つの相の分類はあくまでも便宜的なもので,実際には全ての相変化は極めて移行的に進行する5)。cHairy-1はこの動的な発現パターンを90分ごとに繰り返し,その周期はみごとに体節の発生周期と一致してしていた。
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