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左右相称動物の共通祖先は,ウルバイラテリア(Urbilateria:ur原型+bilateria左右相称動物)と呼ばれ,形態形成に関わっている遺伝子の発現比較から図1Bのような動物として再構築されている。左右相称動物の形態形成に関わる遺伝子の中で,広く保存されているものの代表的なものがHox遺伝子群である。Hox遺伝子群は染色体の中でクラスターを形成しており,そのクラスターのなかでの位置関係に対応して,体の前後軸に沿った位置づけを行う。そのような染色体の構造と対応したコリニアな機能をもつ点まで左右相称動物で広く保存されていることから,左右相称動物の共通の祖先の体でもHoxによる位置づけ,番地づけが行われていたと推定される。そのほか,Pax6によって分化が制御される光受容器,Nkx2の制御下で発生する循環ポンプ(心臓),Dlxによって形成される体表からの突起構造などをもっていたと推測されている1)。
このようなウルバイラテリアの姿とは別に,前口動物の冠輪動物と,後口動物の間にはもう一つ,繊毛を使って泳ぐ幼生が見られるという共通点もある。このような遊泳幼生は,冠輪動物のものはトロコフォア幼生,後口動物のものはディプリュールラ幼生という名前が与えられている。この二つのタイプの幼生は,口の腹側におけるBrachyuryの発現など,いくつかの共通の遺伝子の発現パターンが認められており,左右相称動物の共通の祖先でも,このような繊毛で泳ぐ幼生が見られたのではないかと考えられる(図1A)2)。面白いことに,この繊毛をもった幼生期にはHox遺伝子群のコリニアな発現は認められない。Hox遺伝子群は,この幼生が変態して成体になっていく過程で体の番地づけを行うために発現しているようである3)。したがって,左右相称動物の共通の祖先は,繊毛を備えた遊泳幼生から,変態して体を後方へ伸ばし,その成体の体の前後軸をHox遺伝子群で番地づけするという生活史をもった動物であったと推定できる。
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