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小説などではない書籍を手にすると,はしがきや序をまず読むようにしている。それは著者(ら)の思いが込められているからであり,通読する場合でも拾い読みをする場合でも読者に読み方を指南してくれているからである。翻訳本のときは,さらに,少なくとも原タイトルを見るようにしている。
この本の原タイトルは“Common Pitfalls in Cognitive and Behavioral Neurology: A Case-Based Approach”であり,「認知的・行動学的神経学におけるよくある落とし穴:症例を踏まえたアプローチ」となる。そこには本書の3つの特徴が示されている。第一は,認知症(私は用語としてデメンチアを好む)における認知的側面とともに,行動学的側面に関心が払われている点である。行動神経学的症状,すなわちBPSD(behavioral psychological symptoms of dementia)は本邦では時として「認知症の周辺症状」とされているが,決して「周辺症状」ではなく,しばしば「中核症状」なのである。第二は,診断する際のPitfall(落とし穴,思わぬ危険)の紹介に貫かれている点である。拙速な判断は予期せぬ失敗から患者や医療全体の負担を増加させているのである。第三は,各章は,練られた思わせぶりな短いタイトル(例:「“いつもの彼じゃない”」とか「発話に間がある」)の下に病歴が記載されている点である。読者は必ず病歴を精読してから(フォントが解説よりやや小さいのが気になるが),何が落とし穴かを推測しておいて解説に進むことが推奨される。整えられたいわゆる「教科書的」な記載で診断しようとすると,事象(症例)における「幹」と「枝葉」の区別がつけにくく,誤診につながりやすい。本書はその際の「だが待てよ」というポイントが十分に記述されている。そして帯に書かれているが,もう1つの特徴として,3分の1の章にWeb動画が付けられ,言語や高次脳機能症状などを具体的に見ることができる点がある。
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