Japanese
English
- 販売していません
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
呼吸筋は大きく吸気筋と呼気筋から構成されている.代表的な吸気筋に横隔膜があり,吸気で収縮して尾側に動き,胸腔を広げて胸腔内を陰圧にし,空気を流入させる.また,外肋間筋は肋骨を頭側に移動させ,胸郭を広げて空気を取り込む.他,呼吸補助筋として胸鎖乳突筋や大胸筋,前鋸筋,斜角筋など,胸郭を広げて陰圧にする筋肉群が吸気筋群として挙げられる.一方の呼気筋であるが,まずは肺胞の膨張による弾性が空気を排出する呼気圧を産生し,空気の肺内外の出し入れが可能になる,という筋肉によらない呼気圧がある.それに加えて呼気筋としては内肋間筋があり,肋骨を尾側に引き下げて胸郭を縮ませて胸腔内を陽圧にし,肺から空気を流出させる.主要な呼気筋としては腹直筋,腹斜筋,腹横筋などの腹筋群が挙げられ,収縮して腹腔内圧を上昇させて腹腔内臓器を頭側に移動させ,横隔膜を押し上げて,胸腔内を陽圧にし,呼気を実行する1).
日本人の死因は厚生労働省の人口動態統計(2023年版)では肺炎が5位で4.8%を占め,誤嚥性肺炎は6位で3.8%を占める.合計すると8.6%を占め,悪性新生物,心疾患,老衰につぐ4位となる.これら肺炎によるものに慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)や間質性肺炎などによる死亡などを加えると,呼吸器疾患という概念になり死因の13.5%を占め,心疾患につぐ3位となる.肺の中心的な防御機構は力強い呼吸筋による効果的な咳で,気道分泌物や気道に誤嚥した異物を喀出する.このため呼吸筋力低下は咳を弱めて呼吸器疾患発症のリスクを高める.また,息切れや運動障害を惹起しactivities of daily living(ADL)や生活の質(quality of life:QOL)を低下させる2).
本稿では以下の3つの病態に対する呼吸リハビリテーションにおける呼吸筋の役割を述べる:1)肺炎,2)慢性閉塞性肺疾患,3)脊髄損傷.
肺炎は老人の友,という高名な内科医のウイリアム・オスラーの言葉があるが,日本の肺炎による死亡の98%を65歳以上が占める.また,90歳以上の高齢者では死因の2位となる.このように人口の高齢化に伴い肺炎死は増加している.ここで入院肺炎症例中の誤嚥性肺炎の占める割合は宮城県の2021年の多施設共同研究では70歳台で35%,80歳台で45%,90歳台では50%前後だった(図1)3).誤嚥性肺炎は1)嚥下反射の低下により口腔内容物を気道内に誤嚥し,2)咳反射の低下により誤嚥物を喀出できず,発症する.ここで舌などの嚥下筋の萎縮が嚥下機能を悪化させ,呼吸筋力の低下が咳を弱める2).この筋力の低下を主要兆候とするサルコペニアだが,2010年に欧州のEuropean Working Group on Sarcopenia in Older Peopleが2010年に診断基準を提案し,脚光を浴びるようになった.サルコペニアとは1989年に米国のローゼンバーグらが提唱した概念で,一般的に加齢に伴う筋力や筋肉量の減少,身体能力の低下を意味する.2016年に国際疾病分類ICD-10コードが初めて付与され,独立した疾患となった.2019年には診断基準が改訂されサルコペニアとは筋肉の疾患(筋肉の機能不全)で高齢者のみならずより若い世代でも起こりうるとされた.そしてサルコペニアは筋力の低下を中心として筋肉量や質の低下を伴うもので,さらに身体能力の低下が加わると重症とされた4).
誤嚥の種類には唾液などを誤嚥して誤嚥が周囲に明らかではない不顕性誤嚥と,食べ物などを誤嚥し周囲からみて誤嚥が明らかな顕性誤嚥がある.これらの誤嚥性肺炎症例に占める割合は報告により大きく異なっているが,おおよそ不顕性誤嚥が半分強,顕性誤嚥が半分弱との報告が多い2, 5).不顕性誤嚥の中でも咳を伴わない連続した微量な唾液の誤嚥は特に睡眠中によく見られ,誤嚥性肺炎発症に大きく関与する.不顕性誤嚥の予防には体幹角度や頚部の角度などのポジショニングが大事である.高齢者で食後2時間,座位を保つと臥位を保つ群に比べ発熱者が減ったため,食後はなるべく頭部を上げた座位が勧められている(ポジショニング).この機序として主に胃食道逆流の抑制が考察されてきた6, 7).

Copyright © 2025, The Japanese Association of Rehabilitation Medicine. All rights reserved.

