連載 ケアフルな一冊『山谷崖っぷち日記』
道は1本だけじゃない
坂田 三允
1
1群馬県立精神医療センター看護部
pp.81
発行日 2003年1月15日
Published Date 2003/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689900544
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学生時代,山谷で子ども会活動をしていたことがある。新聞の三行広告を見て出かけた山谷は,独特の雰囲気があったとはいえ,「生活」の場であった。男と女がいて,子どもたちも大勢いた。押入れも床の間もない4畳半の部屋に父親と母親と双方の連れ子が3人4人ひしめきあっていた。おとなの顔色を窺うことに長け,子どもらしくない目をした子どももいたけれど,みんなたくましく生きていた。子ども会活動は楽しかったし充実していたが,教師の目を盗んで授業をさぼることには限界があり,実習が本格的に始まったこととも関連して,私の足は山谷から次第に遠のいてしまった。やり始めたことを中途半端に放りだしてしまった後ろめたさはずっと残り,あの子たちはどうしているのだろうと今でもふっと思うことがある。それに私は山谷の住人たちが,やむを得ずであれ,自分で選択してであれ,私にはできない生き方(たとえば孤独に耐えることなど)をしていることにある種の羨望を抱いている。だから4畳半の簡易旅館から新しいベッドハウスへと様変わりし,子どもたちはもういなくなってしまったことを人伝に聞いても,私は山谷という言葉につい反応し,山谷と名のつく本を買わずにいられない。本書も,そのような流れのなかで購入したものだ。
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