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Ⅰ.はじめに
外耳道異物は,日常診療において決して数多く遭遇する疾患ではない。むしろ救急患者として受診することが多く,救急患者のみを扱う大阪市中央急病診療所における平成15年度の統計では,全患者数19,625人中,外耳道異物患者は539人,3%にのぼった1)。また諸家の報告によると,耳鼻咽喉科領域の異物の中で耳の異物が占める割合は10~45%2~8)で,病院に比べ開業医を受診する機会が多いとされる6)。前述の大阪市中央急病診療所では,耳鼻咽喉科領域での異物患者総数1,891人に占める割合は29%であった1)。異物の種類としては,幼児や小児ではBB弾やビーズなどの小玩具類が多いが,成人では綿棒の綿や耳掻きの一部,ティッシュペーパー片など,耳掃除をしようとした際に異物となるものが大半である。また少数ではあるが,蛾やゴキブリなど昆虫の異物が年齢を問わずみられる。性別による差は外耳道異物全体ではみられないが,小児例では約2:1で男児が多いとされる7)。
自らの不注意で外耳道に異物を挿入し摘出が困難になった場合,患者は自分で摘出できない焦りと,難聴や耳閉感など普段とは違う感覚に大いに不安になり,慌てて医療機関を受診することが多い。また昆虫異物症例では,昆虫の大きな羽音や咬傷,肢運動による激痛のため,この場合も救急患者として来院することがほとんどである。患者や家族が摘出を試み,他方,俗説を信じて長時間懐中電灯で外耳道内を照らし続けた結果,病状がますます悪化して来院するケースも少なくない。すなわち,外耳道異物は外来診療の場において,迅速な対応を迫られる疾患といえる。診察医は異物の種類と状態を把握し,年齢や疼痛の度合いを加味したうえで,摘出方法や麻酔方法を速やかに判断しなければならない。これらを誤ると,外耳道からの出血のみならず鼓膜損傷や内耳障害など思わぬ合併症を生ずる危険性が高まる。また外耳道異物の摘出は,異物の種類にもよるが工夫と経験を必要とする。
以上の点を踏まえて,本稿では外耳道異物症例に対する診療上の注意と摘出方法について述べる。
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