連載 職場のエロス・12
耳喰い
西川 勝
1,2
1老人保健施設ニューライフガラシア
2大阪大学大学院臨床哲学博士課程前期2年
pp.80-81
発行日 2002年11月15日
Published Date 2002/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689900532
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「あいつには気をつけろよ」と,先輩は口元をゆがめてささやいた。ぼくたちの視線の先には,さっきから体を細かく前後に揺すり,壁に頭をぶつけそうになりながら,首を振ってはブツブツと独り言を続けている男がいる。「とっつあん」と呼ばれている開院以来の古参患者である。坊主刈りで白髪がずいぶん目立つ。背は低く腹が突き出てガッシリした体。いつも腰に手垢まみれのタオルをぶら下げている。脂ぎったごつい顔に斜視もあって,表情が読みにくい。
精神科に勤めはじめて間もない頃,先輩から聞かされる話はどれもが衝撃だった。
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