患者の訴えに對して
耳なり
大和田 健次郞
1
1慶應大學
pp.15-19
発行日 1953年5月15日
Published Date 1953/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907290
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1)耳なりというのは
耳なりと云うのは,外界から音が入らないのに,何かの音がきこえる時に耳なりという。併しこれは單なる音に限るのであつて,言葉や音楽がきこえるようなのとは違う。後者は幻聽といつて別な疾患に由來する。
一體正常人と云われている人が,何の音もしない部屋,これを我々は防音室と云うが,絶對防音室に入つたとき,何の音もきこえないかというと,必ずしもそうでなく,シーンと云うような音をきく人がかなり多い。外からは全く音が入らないとしても,我々の生體内で何かの音が考えられる。例えば血管内に動いていたり筋肉の收縮があつたりするので,之も音となり得るし,又その他種々の化學的現象が行われているので或は之が刺戟となり音として感ずるかもしれない。然し之等の人々は正常な聽力を有し,日常生活を差支なく行つているのである。防音室に入らなくても,深夜になつて周圍が静かになると,正常人であつても何かの音即ち耳なりを感ずるものが多い。従つてよく注意すれば,かなり多くの人々が耳なりを感じているわけである。何かの原因で耳なりが大きくなつて,日常生活に支障を來すようになれば,病的の扱いをしなければならない。日常生活に差支えるようになるのは,耳なりよりもむしろこれと同時に現われる難聽によることの方が多いと思う。
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