連載 私たちの体験から……1
ある精神病者Sさんの死
富山 明雄
1
1共同作業所Hot Job
pp.66
発行日 1998年1月15日
Published Date 1998/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689900013
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私は1987年夏,練馬西部にあるJ病院を退院しました。通算入院年数二十年余。はたしてすんなり社会に溶け込めるか危惧はありました。でも,この頃より精神障害者にたいするケアが充実しはじめたのです。私はこの年,発足間もないデイケアに通い,翌年には開所したばかりの共同作業所「ほっとすぺーす練馬」へ通所しました。そして今,6畳一間のアパート生活ながら順調に社会生活を送っています。
でも,私といっしょに入院生活を送った仲間たちは,一握りの幸運な退院者を除いては未だに檻の中の生活を強いられています。たしかに病院そのものの開放度は進み,制限はあるもののお金は自由,外出もできます。過去から見たら天国,そう思う者もいるでしょう。でも真の自由ではありません。これらの人の多くは年老い,もはや社会生活を送る気力,体力もないのです。このままでは入院のまま生を終わってしまいます。何とかできないか,私には何もできません。空しさのみです。
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