特集 身体を使った対話“演劇”がケアになる
「正常病」に抗する演劇
松嶋 健
1
1広島大学大学院人間社会科学研究科
pp.487-490
発行日 2024年11月15日
Published Date 2024/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689201344
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
演劇と社会生活
イタリアで暮らしていると演劇に出会う場面が多い。お金を支払って劇場で観る演劇やオペラだけでなく、無料で観ることのできるものがたくさんある。街の広場や村のお祭りで、あるいは夏のヴァカンスの時期のビーチでも、ソフォクレスやエウリピデス、アリストファネスなどの芝居に出くわす。冬にはクリスマスの時期にキリスト降誕劇を大小の街や村でやっているし、復活祭の頃にはキリスト受難劇もある。また、教育に演劇が導入されていることも一般的で、幼稚園や小学校ではキリスト降誕劇、高校、特に古典リチェオではギリシア悲劇やギリシア喜劇が演じられ(ラテン語などで)、言語リチェオではシェイクスピアなどが演じられる(英語などで)。イタリアの学校では、運動会や体育祭がない代わりに、演劇を(しばしば学校の外で)上演するのである。演劇はイタリアでは、生活のなかでそれなりの大きな位置を占めている。
ヨーロッパでは中世以来、文字の読めない民衆に聖書の教えを伝えるための最大のコミュニケーションツールは演劇であった。数々の壮麗な教会建築も、「神秘劇(Mistero)」と呼ばれた宗教劇の舞台セットという意味合いを持っていたのである。民衆の霊的かつ道徳的な教育のために演劇を用いるという手法は、16世紀以降イエズス会によってヨーロッパにとどまらず新大陸に持ち込まれたし、江戸時代の日本にも伝わっている。
Copyright © 2024, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.