特集 精神科治療、この10年で覆った常識とは
“不要な神話”を手放した人たち
—「ダメ、ゼッタイ」を覆した—エッセイ『誰がために医師はいる』
松本 俊彦
1
1国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部
pp.9-13
発行日 2023年1月15日
Published Date 2023/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689201077
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薬物依存症医療の暗黒時代
かつてわが国の薬物依存症医療は、実はひどいものだった。
私が依存症臨床を始めた25年前、わが国の薬物依存症医療の主流は、閉鎖病棟への非自発的入院による治療モデルであった。ある専門病院では、薬物依存症患者の渇望を、自己制御困難な病気の症状と捉え、渇望の強い時期(渇望期)が過ぎるまでは退院させなかった*1。たとえ患者が正当な理由から退院を要求しようとも、その要求がいかなるものであれ、薬物探索行動の発現だと断じられて、一定期間、「病棟」の鍵が空けられることはなかった*1。
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