連載 ひそかに読まれている本・2
『摩滅の賦』
「摩滅学」というジャンルの創造
平尾 隆弘
1
1編集者
pp.37
発行日 2004年3月1日
Published Date 2004/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100203
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擦こする,撫なでる,摩さする,踏む,磨みがく,舐なめる,しゃぶる,研とぐ,碾ひく……。
これらはすべて「摩滅」にかかわる動詞である。あるときは手足を用い,あるときは臼や砥石などの道具を用い,人間は対象物の「摩滅」に力を貸してきた。「摩滅」は人為的にもたらされるだけではない。大自然の作用によって,建造物は廃墟と化し,美術品は毀損する。貝や石ころは微小な粒子となり,やがて消滅する。爪や歯に典型的に見られるように,人体も生きながら「摩滅」を告知されている。零落,落魄はあらわになった人生の「摩滅」の相である。
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