連載 職場のエロス・20
貨車いっぱいの金塊
西川 勝
1,2
1井伊掃部町ディサービスセンター
2京都市長寿すこやかセンター
pp.66-67
発行日 2004年3月1日
Published Date 2004/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100208
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おっさんが今日も夕日に目を細めている。にんまりと緩んだ口もとに,あふれる満足をこぼしそうだ。少し不自由な萎えた足は,でかい図体を心細げに支えている。すばらしい色の夕焼け雲は,頑丈な鉄格子に縦切りにされている。2階にある病棟の窓からは遠景がよく見渡せる。外を眺める患者を,そっと後ろから見つめる癖がぼくにはあった。
精神病院に何十年と暮らす彼は,おっさんと呼ばれている。おっさんは誇大妄想で人気だった。近づく身寄りもなく,つんつるてんのボロ服を着て,太い腹がズボンからはみ出ていた。
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