生命輝かせて―臨床医としての真髄を求めて・4
いまから ここから
有働 尚子
1
1みさき病院神経内科
pp.287-292
発行日 1999年4月15日
Published Date 1999/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688901981
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一念発起して,1か月間に25日のペースでの連続当直をそれほど苦にもせず半年間こなし,自力で留学費を貯め,一目散にパリへ飛び立ったものの,現実に私を迎えてくれたのは長い間恋い焦がれていた〈憧れのパリ〉ではなく,暗く薄汚れた安ホテルの狭い一室の惨めさに象徴された〈素顔のパリ〉であった.この,あまりにも惨めな出迎えが,半年間情熱的に肉体労働に耐えてきた私の体と心を打ちのめした.色々不満はあるといっても,長年住み慣れた日本に乾いた別れを告げ,わずか十数時間のうちに異国の土地に足を下ろしている自分が,何とも信じられない気がした.出来ることなら,夢であってほしいとまで思ったことを記隠している.
あの時の私は,金銭的には何とか間に合ったものの,精神的準備においては,〈駆け込み〉状態で,日本からは誰も援助してはくれないという現実と,このパリでは自分自身だけが頼りであることを骨身にしみて自覚するには余裕がなさすぎた.私の半年間あまりの日本での慌しい研修生活の中では,予想だにしなかった底知れない孤独感に,突然苛まれた.
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