COFFEE BREAK
あいまいな人の世
屋形 稔
1
1東新潟病院
pp.1195
発行日 1993年11月15日
Published Date 1993/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542901791
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コンピュータ時代になりテクノストレスという病態がじわじわ増えていると最近の新聞が取り上げていた.検査室の周辺にまさしくこの症状を示すドクターや技師がいるのに思い当たる人も多いことと思われる.専門家に言わせるとコンピュータを相手にしていないと安定しない依存症をさすものである.命令に確実に答えるコンピュータの世界に没入してしまい,あいまいさがあり,さまざまに変化しうる人と人との関係を作れなくなるというから背筋が寒くなる.
したがって,人との交わりの中に生まれる喜びや悲しみを体験しようという心がけが少しでも残っていれば本症の克服は見込みがある.現代に生きる人にこそ若いうちから読書や観劇などにも楽しみを見いだし,いろいろなものから人生を見るくせをつけることが必要でないかと思われる.わが愛読書である『鬼平犯科帳』などで知られる池波正太郎の時代小説は,息もつかせぬおもしろさの中に人と人との交わりや人生を考えさせるくだりが随所に見られる.例えば「霧に消えた影」という作品の中に剣の修業を通して師弟のあり方がきちんと書いてある.
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