連載 介護することば 介護するからだ 細馬先生の観察日記・第32回
「よいしょ」の謎
細馬 宏通
1
1滋賀県立大学人間文化学部
pp.242-243
発行日 2014年3月15日
Published Date 2014/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688102750
- 有料閲覧
- 文献概要
社会言語学が専門の早稲田大学のペート・バックハウスさんが、介護現場で用いられることばについて、おもしろい研究をしている。話しことばを扱う言語学では、私たちがどんなことばを用いるかを調べるために、実際の語りや会話を大量に集めた資料である「コーパス」を用いる。このコーパスには、学会のプレゼンテーションで用いられる語りや、自分の経験を話す語りなど、いろいろな種類がある。バックハウスさんは、介護現場で交わされることばを文字起こしして、それを既存のコーパスと比べてみた。すると、ある単語の頻度がまるで違うことに気づいた。そのことばとは、「よいしょ」である。
既存のコーパスでは「よいしょ」はほとんど見られないのに対して、介護現場のデータでは第3位と、実によく使われるフレーズなのだそうだ。そういえば、私も介護現場で「よいしょ」をよく耳にする。お年寄りの体を起こしたり支えたりするとき、職員さんも、そしてお年寄りご本人も、しばしば「よいしょ」と口にしている。
Copyright © 2014, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.