連載 とらうべ
分化の謎
荒井 良
1
1子どもの医学協会
pp.987
発行日 1990年12月25日
Published Date 1990/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611903255
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個体発生。つまりたった1個の受精卵から,どのようにして複雑極まりない生命個体が作り上げられるのか。私が発生学の研究者としてこの問題に足を踏み込んで30年以上になる。医学はその間に長足の進歩を遂げた。しかし,個体発生についてはまだ,不明の闇に閉ざされていることが非常に多い。
何が不明なのか。簡単にいうと,受精卵はとにかくたった1個の細胞である。満期産成熟児で約3兆個,私たち成人の体は50〜70兆個ぐらいの細胞でできている。つまり,人間が誕生するまでに受精卵はどんどん「分裂」して増えなければならぬ。しかし増え続けるだけならただ細胞がたくさん集まっているだけで,「鹿の子」菓子のようになってしまう。こうなってしまう場合が胞状奇胎である。これでは困る。 分裂して増えながら,ある細胞群は脳に,別の群は心臓に,というように違う性質の細胞に性質を変えていかねばならぬ。
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