特別記事
認知症高齢者の在宅医療―「梶原モデル」の実践を通して
平原 佐斗司
1
1東京ふれあい医療生活協同組合梶原診療所在宅サポートセンター
pp.51-55
発行日 2009年1月15日
Published Date 2009/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101239
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認知症ケアを取り巻く状況と医療の課題
介護保険開始以降,認知症ケアは進歩してきた。とりわけ,介護専門職の認知症ケアに関する経験の蓄積,グループホームなどの認知症高齢者への新たなサービス展開は特筆に値する。2004年に「痴呆症」から「認知症」に名称が変わったことは記憶に新しいが,国民の「認知症のとらえ方」もこの十年で大きく変化した。今世紀に入り,認知症患者さん自身が自らの内的世界を語り始めたことが大きなインパクトを与えている。認知症が認知の障害であり,周りの人や社会のサポートがあれば,地域でその人らしく生きていくことが可能であることが次第に理解されるようになってきた。
我が国の認知症ケアにまつわる最大の課題は医療モデルの欠如であろう。認知症を診断できる医師の数が圧倒的に不足している。国民が認知症を疑った時,どこで適切な診断が受けられるのかが明らかでない。地域では最大の課題である認知症が,医学教育のなかでは隙間医学にすぎない。アルツハイマー病患者の9割が他の合併症をもち,多くの患者が合併症で死亡していることからもわかるように,内科的な全身管理が重要である。また,中等度の時期に在宅生活を破綻させる主な要因である行動心理徴候(BPSD;いわゆる問題行動)への科学的なアプローチ法の普及も大きな課題といえる。そして,重度から末期にかけては,終末期における意思決定の支援,末期の診断,ホスピス緩和ケアの実践において,医療がその役割を果たすことが求められている(表1)。
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