連載 続・白衣のポケット・22
宝物
志水 夕里
pp.806
発行日 2002年10月10日
Published Date 2002/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686901530
- 有料閲覧
- 文献概要
ICU勤務の頃,ギラン=バレー症候群で全身麻痺に至った青年Nさんのことを書いた(本連載11)。今回はその後の話。緩和ケア病棟に移って半年。病棟の流れも見えてきた頃,「Nさんが退院だから会いに行けば」と,前病棟の師長が,夜勤の巡視時にたまたま教えてくれた。Nさんは,1年前にギラン=バレー症候群を発症し,ICUで気管切開,γ-グロブリン療法を経て,内科病棟に移った青年。ICUを出るときは,自発呼吸無し,意識はあっても,眼球以外どこも動かせない状態だった。アイコンタクトが意思疎通を図る唯一の方法。内科を訪問した時は,人工呼吸器離脱がそろそろか,という段階でしかなかったが,それから半年以上経つ。どの程度の状態で,リハビリ病院へ転院するのだろうと心配が先に立つ。
日勤を終えて彼を訪ねた。何のルートも付いていない。その驚異の回復度に,まずびっくり。声をかけると「もう会えないかと思っていましたよ。志水さん」という,彼の初めての声に,そして,私の名前を覚えていてくれたことに,もう涙。今までの経過を,確かめるように会話した。辛い日々,体位交換が唯一の楽しみだったこと,経管栄養が苦痛で,経口摂取を自ら試してナースに見せたこと,会社の仲間とのやりとり,友人の面会ノート。苦難に満ちているはずの入院生活は,彼の口から語られると,ユーモアと温かさばかりが印象に残った。
Copyright © 2002, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.