連載 環境?!・17
患者の目線で作られた案内板
筧 淳夫
1
1国立医療・病院管理研究所 施設環境評価研究室
pp.349
発行日 2000年5月10日
Published Date 2000/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686901198
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写真は,ウィーン大学総合病院の放射線検査部門にある,患者が利用する廊下に掲示している案内板である。モノクロ写真のためにわかりにくいが,撮影室と待合室が赤,緑,紺,黄色の4色で塗り分けられている。これを見たとき,この塗り分けは検査器械の種類を示しているに違いないと思いこみ,私は院内を案内してくれた人に「それぞれの色は何の検査器械を示しているのか」と質問した。彼はその質問の意味が分からずに首を傾げ,「これはただ単に撮影室と待合室の関係を示すものです。たとえば患者には『赤の待合室で待っていてください』とだけ言えば迷うことはないですからね」と答えてくれた。よく見ると4つの撮影室に1室の待合室が対応していて,その組み合わせを4色の色で塗り分けており,「一般撮影室」「CT」「透視」といった検査機器の機能によりグループを構成しているのではなかった。また,撮影室はA,B,Cなどと表示されており,親しみのない検査器械の名前が掲示されているわけでもなかった。
病院は看護部,診療部,各種検査部などいくつもの組織から構成されており,その複雑な組織を空間として具現化している。そのため,患者にとっては複雑で迷いの生じやすい建物ができ上がる傾向にあると言える。院内に案内板を設置する際にも,医療者にとっては常識の,病院の組織や機能を前提に作成してはいけないのかもしれない。
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