連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・176
思いを伝えるって,むつかしい。でも……
柳田 邦男
pp.348-349
発行日 2021年4月10日
Published Date 2021/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686201840
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新型コロナウイルス感染の広がりは,いのちの危機への恐怖心を人々にもたらしただけではない。感染拡大を防ぐために,病院や緩和ケア病棟や老人ホームなどの福祉施設が厳しく面会規制を行ったために,家族が付き添うことも訪ねて話しかけることもできなくなった。
緩和ケア病棟の末期がん患者や老人ホームの老衰の進んだ患者は,人生の残された時間がわずかばかりになっているのに,家族の面会が許されないため,ただ孤独に“その時”を待つだけという状態に耐えなければならない。家族の側も,愛する人が人生の大事な最終章を迎えているというのに,付き添ってケアをし,思い残しのないようにやさしい言葉かけをしてやることもできない。「ありがとう」「さようなら」「またあの世で会おうね」といった言葉を交わすことは,旅立つ人にとっては,心安らかに最期を迎えるうえでとても大事なことだし,残される人にとっても,喪失感から立ち直るうえで大事な要素となる。
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